アルバイト

今から1年くらい前のことです。僕は夏休みを利用して旅行にでも行こうと思い

お金を貯める為にアルバイトをしようとしていた時のことです。

暑い部屋のなか、扇風機をまわしながら求人誌をめくり

何件もアルバイトの電話をしていました。

ところがなぜか もう決まったとか 大学生はちょっととか

なぜかどこもかしこも良い返事をもらえませんでした。

「何だよ 面接ぐらい受けさしてくれよ」

とふてくされながら 部屋の、畳の上に大の字で寝転がった。

ぐぅ~~~~。

静かな部屋の中に響きわたった。

「そういえば今日1日何も食べてないな」

台所にインスタントラーメンが一つ残っていたことを思いだす。

「ラーメンでも食べるか。」

僕は重い腰を上げ、台所に向かおうとした
その時 はずみでテーブルの求人誌が

床に落ちた。

開いたページに ふと目をやると旅館の住み込みのアルバイトが載っていた

何でも 三食 食事付きで まさに僕が旅行に行こうと思っていた場所である。

時給はあまり良くはなかったけれど 交通費も支給されると書いてあったので

すぐに電話をしてみた。

「ありがとうございます。・・旅館です。」

若い女性の声が聞こえた。

「あ すみません。求人広告を見たのですが まだ募集してるでしょうか?」

「あ 少々お待ち下さい・・・・・・ガタ・・・・はい・・・・・え・・・

・・です・・・・。」

電話の向こうで、男の人と小声で会話しているのが聞えた。

「はい お電話変わりました。アルバイトでしょうか。ぜひお願いしたいのですが

何時から来られますか?」

「あ はい いつでも僕はかまいません。」

「では もしよろしければ明日からでもお願いできませんか?」

「わかりました では明日そちらに向かいます。」

「お待ちしております お名前の方を願いします。」

「丸井です 明日からよろしくお願いします。」

「丸井さん 早く来て下さいね。お待ちしております。」

とんとん拍子だった。タイミングが良かったのだろう。

僕は電話の要件などを忘れないように録音する癖がある。

住み込みなので忘れ物のないように録音を聞き直しながら荷物の用意をした。

僕は旅行に行きたかった 場所に行けるということで 最初はすごく嬉しかった

のだが なんだか気持が憂鬱になってきた。

旅館には若い女の子もいるようで 新しい出会いもありそうなので

いつもならワクワクするはずなのだが・・・。

次の朝 私はひどい頭痛で目が覚めた 激しく嘔吐する。風邪か?

私はふらふらしながら歯を磨いた 歯茎からは血が滴りおちた 

鏡で自分の顔を見ると目の下にはくっきりとしたクマができており

顔色は真っ青である。

僕はバイトを辞めようかとも思ったのですが すでに準備を夜のうちに

整えていたので

今日はバイト先に行って理由を説明してバイト先で休まして貰おうと

思っていた。

その時電話が鳴った。

「おはようございます。旅館の者ですが丸井さんの電話で間違えないでしょうか」

「はい 丸井です少し体調が悪いので今日は旅館に着いてから休ましてもらって

よろしいでしょうか。」

「大丈夫ですよ もともと今日はゆっくりとして貰おうと思ってましたので

温泉などにつかって休んでいて下さい。」

「ありがとうございます。」

「ではこちらに来るのを待ってます。」

「では向かいます。」

すごく親切で優しい電話だったのでとりあえずバイト先に向かうことにした。

僕はすれ違う人が振り返るほどフラフラしながら駅へと向かった

やがて雨が降り出した。僕は傘を持ってなかったので雨に濡れながら

駅へ向かった 激しく咳が出る。

「早く旅館で休みたい」

僕はびしょ濡れの手で切符を買おうと自分の手に目をやると手はかさかさになり

まるで老人のようだ。

僕は手すりにすがるようにして足を支えて階段を上った何度も休憩しながら

電車が来るまでに少し時間があったのでベンチに倒れ込んだ

ぜー、、、ぜー、、、手足が痺れている。波のように激しい頭痛が押し寄せる。

ごほごほと咳が出る。手で口元を押さえると赤い血が手にベットリと付いていた

僕はかすむ目でホームを見ていた。

「はやく・・・・旅館に・・・行かなくては・・・」

電車が来た。

僕をふらふらしながら電車に乗り込もうとした その時老婆にぶつかった

鬼のような顔をした老婆が僕に襲いかかってきた。

相手は老婆なのに体中に力が入らず抵抗することが全く出来なかった。

「やめろ やめてくれ!僕はあの電車に乗らないといけないんだ!」

「なぜじゃ!なぜ乗らなくてはいけないんじゃ!」

老婆は僕にまたがり顔をわしづかみにして地面におさえつけながら聞いた。

「旅館旅館旅館 旅館に行けない 旅館旅館旅館僕は行くんだ」

やがて駅員たちが駆け付け僕たちは引き離された。

電車はすでに行ってしまっていた。

僕は立ち上がることもできず人だかりの中心で座り込んでいた。

「おぬし引かれておる あぶなかったの。」

そして老婆は去って行った。

僕は駅員に家へ帰るよう促され仕方なく駅を出て家へ戻ることにした。

するとみるみる体調も良くなって行き家に着いたころには

さっきまでの体調不良が嘘のように元気になっていた。

荷物をおろし タバコを一服しながら少し考えてアルバイトの件は

断ろうと思い電話をすることに決めた。

旅館に電話をかける。

「この電話番号は現在使われておりません」

もう一度かけ直してみたがやはり

「この電話番号は現在使われておりません」

・・・・・・・・。

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僕は混乱した まさにこの携帯電話に朝方電話がかかってきたはずなのに

おかしいおかしいおかしい・・・・。

僕は通話記録を録音をしていたことを思い出し もう一度聞き直してみた。

、、、、、、キュル、、キュキュキュ、、、、、ガチャ、、

「ザ、、、、はい。ありがとうございます。・・・・ではお待ちしております。」

あれ 僕は悪寒を感じた 若い女性だったはずなのに声がまるで低い

男性のような声になっている。

僕は巻き戻し音量を最大にして聞いてみた。

「え、少々お待ち、、、、、、、ザ、、、、ザ、、ザ、、、い、、

です、、、、、キュ、、、。」

巻き戻す。

「ザ、、、、、、、、ザ、、ザ、、、むい、、こご、、、だ、、、

、、、し、、、、、、、、。」

巻き戻す。

「さむい、こごえそうだ。」

子供の声が入ってる。さらにその後ろで大勢の人間のうめき声が入っている。

うおぉ!!

僕は脂汗が出てきた。

録音がそのまま流れている 

「あ はい いつでも僕はかまいません。」

記憶にある会話。しかし僕はおじさんと話していた筈なのに

そこから流れる声は地の底から響くような低い声の老人だった。

「丸井さん 早く来て下さいねお待ちしております。」

そこで通話が途切れた。僕の体中に冷や汗が流れ落ちる。

外は土砂降りの雨 金縛りにあったように動けなかった。

通話記録の録音がそのまま流れ始めた。今朝 掛かって来た電話だ。

「呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う」

「はい 丸井です少し体調が悪いので今日は旅館に着いてから休ましてもらって

よろしいでしょうか。」

「呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う

 呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う」

「ありがとうございます。」

「呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う」

「では向かいます。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

僕は携帯のバッテリーを引き抜いた。

「な・・なんだ・・・なんだこれ・・!?どうなってんだ!?」

僕は机の横に落ちて開いていた求人誌のページに目を向けた。

なぜかそのページだけシワシワになり大きく黒ずんだしみが広がり

少しはじが焦げ付いていた。

どう見てもそこだけが古い紙質なので まるで数10年前の古雑誌のようだった。

そしてそこには全焼して燃え落ちた旅館が写っていた。

そこに記事が書いてあり20数名が亡くなったと。

台所からの出火が原因のようだ・・・・・。

これ・・なんだ・・。求人誌じゃない。

僕は声も出せずにたたづんでいた。

雨足が強くなり窓に打ち付ける。

その時

携帯の呼び出し音が 雨音を打ち消した。

僕は震えながら携帯のバッテリィーを強く握り締めていた。

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